Aにおける弁護士の役割

昨年暮れ、顧問先から急ぎのM&Aのクロスボーダー案件を依頼され、正月早々韓国に赴いてデューデリを行い、3月に成約した。

私は、これまで4件のM&Aを担当した。

2件は売却側で2件は買収側であった。

うち売却側の1件は不成立になった。営業の責任者である取締役は、外部から招いた人間であったので、最初からキーマンであると考え、私が直接意向を確認したところ、「全面的に協力します、信じて下さい。」ということであった。ところが買収側の社長と面談した際、破談にするような質問を連発した。結局この話は不成立となったが、後に聞いたところによると、取締役氏は、出身企業に相談していたということであった。破談後、出身企業から、約半値で買収の申入れがあった(勿論それは断った。)。このように、M&Aでは、人的要素が極めて重要である。成約した場合でも、会社にオーナーのポケットとなっている勘定科目があったり、オーナーの会社に対する債務の清算が約束通りに行われなかったりなどである。

デューデリは、財務は公認会計士、税理士が、法務は弁護士が担当し、それぞれ別々に作業に着手する。しかし、最終段階で両者の密接なすり合わせが重要である。財務デューデリは資産の査定を行い、法務デューデリは資産に関する法律関係の審査を行い、法的審査の結果、財務の評価に重要な影響を及ぼす場合があるからである。秘密保持契約の締結から入り、基本合意書の調印でスタートし、株式譲渡及びその他の合意書調印で成約である。「その他」は、経営についての合意(特に、現経営者が残る場合)、役員、従業員の身分保証、待遇などある。従業員関係では、社内規程が不備なため、未払い賃金が発生する法的リスクがないかの確認が特に重要である。

仲介会社が仲介した場合、「一切お任せ下さい」と言われることがあると思うが、買収側も売却側も独自に弁護士を雇うことをお勧めする。仲介会社は成約を目指すので、どうしてもプラスポイントに目が行くが、弁護士はむしろマイナスポイント(リスク)のチェックを使命とするからである。